どうして私たちは天文学を研究するのでしょうか。
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人間は毎朝太陽が登ると共に目を覚まし、生活を開始します。
日が暮れ、星や惑星、星雲や銀河が空を彩る時間になると、床につきます。
そんな生活を、我々は何千年と繰り返してきました。
古代エジプト、セティ1世王(紀元前1294−1279年) の墓に描かれた北天の星座 参照 |
私が今吸っている酸素も、今タイプしているコンピュータのアルミニウム金属も、今日食べたチーズのカルシウムも、みんな元々は宇宙から来た元素です。
重い星が死ぬときに、星の内部の核融合反応で生まれたのです。
我々の体を作っている元素も宇宙から来たものです。
そう考えると、天文学ももっと身近なものに感じられませんか?
実用面で言えば、視力回復手術の レーシック にも天文学で開発された技術が使われています。
晴れ渡った夜空に、キラキラと瞬く星。
この星の ちらつき は実は地球大気の流れによるものです。
川に10円玉を落としてみると、川の水の流れのせいで10円玉がゆらいで見えますよね。地球から観測するというのは、それと一緒です。大気が水の役割をしているのです。
そこで大気によるゆらぎを少なくする技術が、天文学で開発されました。
そしてそれは、レーシックにも応用されています。
人の瞳と望遠鏡は、どちらもレンズの役割を果たすので、ピント合わせのための原理が同じなのです。
AO (Adaptive Optics) 補償光学と呼ばれる天文学の技術により、 オリジナルの画像(左)が実は二つの星(右)からなることがわかります。 (出典:レーシック外科医のこちらのブログより) |
電波望遠鏡で培われた技術は、iPhone やGPSにも応用されています。
その恐竜滅亡の原因の一つに、小惑星(asteroid)の地球衝突があげられています。(サイエンスの記事はこちら)
原子爆弾10億個に相当する威力の衝突だったと考えられています。
確率的にはかなり低いけれど、もし同じような衝突が起こってしまったら、人類も滅亡してしまうかもしれません。
そこで、将来的に地球に衝突するかもしれない天体 (Killer asteroid) をハワイにある望遠鏡は現在探しています。それが Pan-Starrs プロジェクト。
アメリカ海軍の資金援助を受け、ハワイのマウイ島ハレアカラ山に1.8mの望遠鏡が建設されました。うまくいけば合計で4台の望遠鏡が、最終的にはハワイ島のマウナケア山に建設される予定です。
Pan-Starrs より |
スパイ衛星の探査も、実は天文学の知識が活用されています。
超新星や小天体の発見に使われる手法は、スパイ衛星を見つけるのにも有効だからです。
となんだかこう書くと、おっかないですね。
今現在、我々が見えることのできる、最も遠い光は約130億光年も昔に放たれたものです。ビッグバンからわずか数十万年後の宇宙の姿を、我々はとらえることが出来ているのです。
宇宙探査機 WMAP が見た宇宙の晴れ上がり ビッグバンから約30万年後の宇宙の姿(画像:NASAーWMAP) |
地球上の物質とちがって、我々天文学者が扱うモノは実際に取って掴んだりすることはできません。でも、物理の法則を応用すると、鮮やかに観測データが説明できるのです。とはいっても、わかっていないことの方が、わかっていることよりもずっと多いのですが。
肝心なのは、観測とそれにより培われた理論によって、今現在見えている天体や現象を理解するだけでなく、どういう過去を経て今の状態になったのかを知り、これからどうなっていくのか予測をたてることもできる、ということです。
将来的に地球が、温暖化や何らかの影響で住める状況でなくなってしまったら、他の惑星へ移住、ということもありえます。そうしたら 天文学 の知識は必須です。
もちろん我々が生きている間にはそんなことにはきっとなりませんし、そうならないよう私も祈ってます。
が、今ものすごい勢いで地球の温暖化は進んでいます。
地球外に住む、というのもあと数百年後には当たり前、いや、もしかしたら人類が生き続くために必要な条件、になっているかもしれません。
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天文学の恩恵をつらつら書いてみましたが、やっぱり私が天文学を好きな根本的な理由は、未知のものへの探究心。
私たちがどこから来て、どこへ行くのか知りたい。
そこにつきると思うのです。
"Si quelqu'un aime une fleur qui n'existe qu'à un exemplaire dans les millions et les millions d'étoiles, ça suffit pour qu'il soit heureux quand il les regarde. Il se dit: "Ma fleur est là quelque part..."
夜空を埋め尽くす無数の星々の
どれかに咲くたった一つの花が好きになれたなら
夜空を見上げるだけでとっても幸せな気持ちになれる。
「僕の花がこの広い夜空のどこかにあるんだ」と信じられるだけで 。
(『星の王子様』サンテグジュペリ)
明けましておめでとうございます!
返信削除今日本では2013年になりました。
今年もよろしくお願いいたします。
天文学に限らず、科学全般に対し全くわからない私ですが少しだけコメントさせて下さい。(あの~、あまりにも変な事言ってると思ったら削除して下さいね)
私は基本的に世の中ってうまくできていると思っています。だから天文学を研究している人の数ってちょうどいいのではないかと思うんです。もっと必要になれば、もっと研究者が増えるのではないでしょうか? つまり今直面している、していないにかかわらず、また、実際に今直接的に成果になっている、なっていないにかかわらず、選ばれた人たちがそれぞれの研究を必然的にしているって思ってしまうんです。うーん、世の中がうまくできているという命題に答えられるわけもなく、お前は運命論者かと言われればそれまでなのですが・・・。
人から聞いた話ですが、アメリカでは人類に警鐘を鳴らすために映画を作ることが多いと聞いています。だからカールセーガンのコスモスから「CONTACT」が生まれたり、地球に接近する隕石の存在がわかり「ARMAGEDDON」や「DEEP IMPACT」が生まれたのではないでしょうか?
でも天文学者の方たちは、ゆうこさんのブログの文章にあるように、未知の物への探求心という思いで研究されているのでしょうね。素晴らしい好奇心だと思います。そして研究者というよりはその研究自身が、役に立つ日を待っているのではないかと思ったりします。だってノーベル賞だって今回の山中さんを除けば、20年、30年前の論文が今認められているんですもんね。
ゆうこさんのこのブログの最初のところでものすごく驚き感動したのが、望遠鏡の施設や研究に対し、民間の方たちが高額な寄付をしているということでした。自分たちが頑張って稼いだお金を、好奇心を満足させるということもあるかもしれませんが、世の為と思って寄付しているのですね。貧しい人たちの為の寄付ももちろん必要だと思いますが、こういった寄付もまた必要ですよね。
Alas! とりとめもなく長く変てこな文章を書いてしまいました。
(恥ずかしい・・・)
山口さん
返信削除あけましておめでとうございます! いつもコメント、本当にありがとうございます。
ブログを書いていて、とても励まされます。
確かにおっしゃるように、アメリカでは 未来への警告 をならす映画が多いですね。。。
ハリウッド映画だとその方が集客率が高い、というのと、やはり社会保障が低く 自己責任 の国なので、
危機管理をしっかりしなければ のたれ死ぬ(極言ですが) という社会の警告なんでしょうかねぇ。
アメリカは巨額の寄付金をする方がいる一方で、アンチ科学。進化論はもちろん、地球温暖化
を真っ向から否定する人もいるという、不思議な国です。
日本やヨーロッパと違って、 小さな政府 で社会保障がひくい分、教育、科学、医療の一部は
寄付金で担われています。また、寄付をするとその分は免税なので、富豪層にとっても政府に
お金を渡すよりは、自分の信じる団体にお金を渡したい、という考えもあるかもしれません。
全米ライフル協会はものすごい巨額の寄付金を集めているようですしね。。。一長一短です。